ちょっとスピリチュアルな短編小説 No.9 「守護霊の仕事 気付き編」


私が地上から去ったのは、かれこれ200年ぐらい前。
そして、今は自分の成長も兼ね、守護の仕事を仰せつかっている。
私が守護をしているのは久美といって、現在28歳。
地上生活は今回で5回目になる。

守護の役目というのは苦労の連続で、なかなか報われない仕事だ。
久美はとてもやりやすい方だが、他の守護を見ていると、何をやっても空振りだという場合が少なくない。

今日は、こうした守護の仕事について話してみようと思う。

久美として地上人生を送る霊を紹介されたのは、地上の年月にすると約40年ぐらい前になる。
霊団を取り仕切っている中心霊から、「お前に欠けているものを補うには、この霊の守護をするのが一番だ」と言われて、迷うことなくその場で引き受けた。
中には自分と全く正反対の霊の守護を要請される場合もあるが、私の場合、今回は比較的やりやすい霊に付かせてもらえた。

久美は地上に再生する前、決意がしっかりしていた。
ただ、どの霊でもそうなのだが、霊界にいる時は再生する意義をしっかり理解していても、生まれると全てを忘れてしまう上に、肉体という小さな枠の中に閉じ込められ、本能という利己的な感覚が理性と対峙することになる。
そのために自分の中で良心と利己心が葛藤をするばかりか、本来の霊的な感覚が鈍り、ほとんどの霊が守護霊を手こずらせる。
久美も例外ではなかった。

魂が目覚めていない霊は、目覚めること自体が地上人生の目的となる場合が少なくないが、久美の魂は3回目の再生の時にすでに目覚めていたので、今回の目的は成長するためとなる。

話を少し戻すが、魂が目覚めていない霊の目を覚まさせることほど大変なことはない。
地上人生の大半は人間同士のカルマが絡み合い、摂理の範囲内で状況設定が自動的に組まれていく。
眠っている魂が目覚めるために艱難辛苦が用意され、これでもかこれでもかというぐらいに苦しい状況に追い込まれる。
これは、宝石を掘り出すには、まず岩をガンガン砕かなくてはいけないのに似ている。
砕かれている時は相当痛い思いをするが、それをしなければ霊性が目覚めないからだ。
特に魂が目覚めていない者は、損得で物事を考え、自分に不利なことがあるとすぐ責任転嫁をする。
責任転嫁をすれば、自分で自分を苦しいところに追い込むことになるのだが、それをなかなか分ろうとしない者が多い。

また、目覚めていない魂は、邪霊からの影響を受けやすい。
守護霊は人間の理性と良心に働きかけるのだが、邪霊は利己心に働きかけることで欲望を湧き上がらせる。
こうした邪霊の働きを阻止するのも守護の仕事なのだが、悲しいことに私たちの声は届きにくく、邪霊の声はすぐに届いてしまう。
そして、邪霊の誘いに乗ることで人はどんどん罪を重ね、カルマを増大させていくことになる。

そうした悪循環を断って魂を目覚めさせるには、生半可な体験では功を成さない。
どうしても艱難辛苦が必要になる。
私たちとて苦しみに喘いでいる者を見続けなくてはならないのは辛い。
苦痛をすぐにでも取り除いて楽にしてあげたいのだが、それは許されていない。
それをすることは、摂理を無視して彷徨っている邪霊と同じことをすることになるからだ。
私たちは、地上の人間が自分の理性を使い、自らの意思で正しい方向を選ぶように手配する以外の方法を持ち合わせていないのだ。
本人のことを考えればこそ、心を鬼にせざるを得ない場合も多々ある。

こうしたことは地上の人間には想像すらつかないだろう。
私も一度だけこうした霊に付く役を仰せつかったことがあるが、もう二度と付きたくないと思えるほど辛い仕事だった。

今回の目的は魂を目覚めさせることではなく、すでに目覚めている魂を磨き、今まで培ったカルマを解消しながら成長させることだ。
どこまでできるかわからないが、とりあえずお役に付いた以上やるしかない。
これはこれでまた大変な仕事だ。

さて、話を久美に戻そう。

じっくり話し合い、ざっとの青写真もでき、少々苦しい地上生活になることを本人も納得したところで、最適な環境を見つけた。
そして、私と周りにいる背後霊たちがハラハラしながら見守る中、久美は地上へ生れるために霊界を去った。

久美は同情心が篤く、誰にでも親切なとても良い子に育った。
これは、前世で成長した成果でもあるが、両親の愛情が更に優しい子に育てていたからでもある。

久美が中学3年生の時、本格的な魂の磨きが始まった。
クラスで現金がなくなるという盗難事件に巻き込まれてしまったのだ。
久美が犯人だと疑われ、私はその経緯を見守った。

当然久美は「自分ではない」と言い張ったが、言えば言うほど回りは疑いの目に変わっていった。
久美はただひたすら耐えたが、どうして自分が疑われなくてはならないのか、どうして誰も自分を信じてくれないのかと、悔しさと嘆きの頂点に達していた。
最初は自分を信じてくれていた友人までもが疑い出した。
それをきっかけに、学校に行くのが怖くなって休んでしまった。

1週間たったある日、担任が家まで来て、真犯人が見つかったことを告げた。
犯人は隣のクラスのA子だった。
翌日登校してみると、久美を犯人扱いしていたクラスメートたちの態度ががらりと変わっていた。
素直に謝る者、何も言わずにバツが悪そうにして遠目で見ている者、何もなかったかのようにニコニコと話しかけて来る者、いろいろだった。
そんなクラスメートを見ていて、久美はいろいろ考えた。

  みんな勝手だなあ。
  私が犯人にされていた時は、まるで汚い物を見るように軽蔑の目で見ていたのに、
  今は同情の目で見ている。
  人間って、その場その場でどうしてこんなにコロコロ変わるんだろう。
  もし逆の立場だったら、私はどうしていたかな。
  もしかしたら私も同じことをしていたかもしれない。
  そう思うと、誰も責めることなんてできない。
  “人の振り見て我が振り直せ”というから、これを教訓にしよーっと。

久美は、疑いが晴れたことは嬉しかったが、真犯人のA子が気になった。
事件発覚後、A子は学校へは登校して来なくなったからだ。
久美はA子の家を訪ねてみた。
彼女は、自分がしでかしたことが久美に大きな迷惑をかけたことを涙ながらに謝った。

やったことは悪いことだが、しかし、それなりの経緯(いきさつ)があるはず。
その経緯を聞こうと思ってはいたが、複雑な家庭状況を感じたため、肝心なことはとても聞けなかった。
その代わり、友達になりたいと申し出ると、A子はとても喜んだ。
その結果、A子は勇気を振り絞って再び登校し始めた。

久美が後で知ったことだが、当時A子の両親は離婚問題が泥沼化していた。
そのため、給食費を払わなくてはいけない日に、A子は払うことができないでいた。
そんな時にドアのすぐ傍にある机の中に現金が見えたため、つい手を出してしまった、ということだった。
金額にしたら僅かなものだが、盗んだことに違いはない。

その後両親は離婚し、A子は母親と暮らすことになった。
金銭的には余裕のない生活だが、精神的にはとても安定している。
そして久美とA子は、中学を卒業してからも友情を続けていくことを誓い合った。

私はこれらの様子を見て、久美が順調に成長し始めたことを確認した。

次に久美に降りかかってきたことは、噂話に乗ることだった。
それは、盗難事件から半年ぐらい経った頃のこと。
いつも一緒にいる仲の良い友達が、「久美だけに言うんだから、他の子には言絶対に言わないでね。 約束よ」
と前置きしてから一つの話をした。

その内容というのは、クラスメートの一人が妊娠したかもしれないということだった。
久美はまだ中学三年生。
これまでそんなことはどこかの遠いところの話だと思っていただけに、身近でそういう事実があるということに大きな衝撃を受けた。

  相手は誰だろう、いつから付き合っていたんだろう、お腹の子はどうするんだろう、
  産むのかな、それとも中絶するのかな・・・

そんな考えが頭の中をぐるぐる回った。
久美はこのことを自分一人の胸に留めて置くことができなくなり、誰かに話したい衝動に駆られた。
そこで私は久美に何度も何度も語りかけた。

  興味本位で人に話してはいけない。
  決して話を広めてはいけない。

久美には私の声が聞こえたようだったが、それはすぐにかき消されてしまった。
誰かに話したいという誘惑に負けて・・・実は、その誘惑というのは欲望に付け込む邪霊の仕業なのだが、その邪霊の誘惑に乗ってしまい、結局別の友人に話してしまった。
すると、たちどころに噂は一人歩きをし始め、どんどんと広まった。
人一人を介すごとに尾ひれが付き、話は誇大化していった。

事実としては、そのクラスメートは妊娠をしたのではなく婦人科の病気だったのだが、その間違った噂が思いの外大きく広がったために神経を病み、転校してしまった。

久美は一人で悶々と考えていた。

  黙っていればよかった
  言わなければよかった
  私があんなふうに言わなければ、あの子は転校しなくてもすんだかもしれない
  何でしゃべっちゃったんだろう
  いけないとわかっていたはずなのに、言いたい気持ちの方が強くなっちゃったから
  でも、私だけが悪いんじゃない
  私だけが噂を広めたわけじゃない
  私も友達から聞いただけだったし、別の子に話した時もしっかり口止めしておいたのに
  それに、私が話したのは3人だけ
  その子たちが話を大きく広げたのよ
  だから私だけが悪いんじゃないわ
  それより、最初にあの子が私に言わなければ、こんなことにはならなかった

と自己正当化し、責任転嫁までしていた。
しかし、かつて自分も噂の的になったことを思うと、このことは、とても後味の悪いことだった。

私はもう一度久美に話しかけてみた。

  人は誰でも自分の言動には責任を持たなくてはいけない
  お前は今回のことで、興味本位の噂がどれぐらい人を傷つけるか、
  身に沁みてわかったはずだ
  だから、二度と同じ間違いをしてはいけない

私が語りかけた後、久美はこのように考えた。

  人は自分の言動には責任を持たなくてはいけないんだ
  興味本位で話すことって、人を傷つけることになりかねないんだ
  もう二度と同じ間違いをしないようにしよう

どうやら、今回はしっかりと私の声が届いたようだ。
守護霊の言葉が届いた時は、本当に聞こえたのではなく、自分で悟ったように感じることが多い。
私は久美が素直に受け入れてくれたことを心から喜んだ。

次の出来事は高校2年の時だった。
クラスに不良の子が数人いて、その子たちは、万引きをした品物を学校に持ち込んで売りさばいていた。
不良の子たちからすると、万引きはスリルのあるゲームにすぎなかったが、久美はそれが悪いことだというのは十分に承知していた。

ある日、その不良の子たちから、万引きした物を買わないかと言われた。
知っていながら買ったとなると、共犯になってしまうことぐらい久美は知っていた。
しかし、なぜか断ることができない。
せっかくできた友達を失いたくないという思いもある。

私は叫んだ。

  断れ!
  絶対に仲間に加わるな!

久美の心には届いているようだった。
しかし、久美は迷っていた。
いや、迷っていたのではなく、悪いとわかっていても断る勇気が出ないのだ。
喧嘩をしたくないし、何より友達を失いたくないということもある。

久美の一番のカルマは、心が弱いことだった。
その弱さが以前生きていた時も自分をダメにしてきた。
だから、今回しっかりと勇気を出して乗り越えておかないと、乗り越えるまで何度でも似たような状況がやってくる。
前世ではこれを克服できなかったため、今世でも繰り返されることになったのだ。

私にはそれがわかっているだけに、安易に助け舟を出せない。
自力で脱出できるようにサポートすることしかできないのだ。

迷っている久美に友達が言った。
「久美、恐いんか。 相変わらず意気地なしなんだ」
そう言って鼻でせせら笑った。

私も久美に話しかけた。

  意気地なしと言われようと、何と言われようと、加わってはいけない
  ここがカルマの解消のしどころなんだ
  お前にはそれがわかっているはずだ
  忘れているだけなんだ
  気持ちを強く持て!
  断る勇気を出せ!

と何度も叫んでいた。

ところが、久美は私の声を振り切り、万引き品を買っただけでなく、ズルズルと万引きのグループに引き込まれて、片棒を担ぐことにまで発展してしまった。
その後、久美はお店の人に見つかり、グループからはトカゲの尻尾切りをされ、久美一人の犯行にされてしまった。

私は語りかけた。

  グループのことを警察に言うんだ
  それは友達を失うことではない
  言わなければ友達の悪い目は覚まされない
  友達のためだ、久美、言え!

久美は迷いに迷っていた。

  自分さえ黙っていればそれでいいんだ
  だって、私たち友達だから・・・
  友達を売るなんてできない・・・

結局、久美はまたしても自分の弱さゆえに、間違った判断をすることになってしまった。
私は今回の一連がとても残念でならなかった。
それ以上に、カルマに関しては必要以上に手出しのできない自分の立場を辛く感じた。

結局、万引きグループは摘発されたが、それは久美からの情報ではなく、現行犯によるものだった。
警察に保護されてからグループとは縁が切れたが、後悔しても後悔しきれないものになってしまった。

そんな久美も成人して結婚をした。
結婚をしてからも仕事は続けていた。

ある時、得意先の男性が荷物を運んできた際、手に怪我をしてしまった。
出血がひどかったので、その人を病院まで連れて行ったらとても感謝され、お礼に食事に誘われた。
最初は断ったが、その人が熱心に誘ってくれたのと、同僚も一緒に誘ってくれたこともあって、行くことにした。

相手の人、仮にBとしておこう。
Bはとても会話が上手な人で、同僚と二人、退屈することなく楽しく時間を過ごさせてくれた。
久美の夫はとても優しい人だが、口数が少なく、夫婦の会話は少なかった。
夫が何を考えているか、どういう気持ちでいるのかさえ分からないことがよくあった。
それだからか、Bが楽しく会話をリードしてくれることに安心感と心地良さを感じた。

それから1ヶ月後、たまたま出かけたデパートでばったりBと出会った。
Bは隅のソファに座っていた。
奥さんに付き添って服を買いに来たのだが、自分はそういうのが苦手なので、奥さんの買い物が終わるまで待っているのだと言う。

久美は自分の買い物もあるので、しばらく雑談を交わしてからその場を離れたが、なぜか気になってBの方を振り返ると、大きな紙袋を両手に下げた奥さんがBの傍にいた。
とてもきれいな人だった。

翌日、Bが荷物を運んできた際、久美に話しかけてきた。
 「昨日はとんでもないところを見られちゃったね」
そう言って頭をかきながら照れくさそうに笑った。
久美はBのことをとても可愛い人だと思った。

それがきっかけで、久美とBはよく話すようになっていった。
仕事中は話す時間が限られているため、しだいに喫茶店で話したりするようになった。
メール交換もするようになり、それもまた楽しみの一つになっていった。
Bとの会話は相変わらず楽しかった。

ある時、話はお互いの家庭のことにまで及び、Bには奥さんと二人の子供がいて、奥さんの父親が同居していることを話してくれた。
奥さんは料理も掃除も行き届いた人なのだが、ただ一つ、何かにつけてグチを言うことが欠点だという。
疲れて家に帰って来る日に限って、いろいろなグチを言うのだ。
我慢して聞くことにしているが、グチを聞けば疲れは更に増し、仕事よりよっぽどストレスが溜まるという。
そう言いながら、自分も久美に愚痴を言ってしまったと言って笑った。

久美は、Bには悩みがないと思えるほど楽しい人だと思っていただけに、この話はちょっと意外だった。が、なぜかホッとしたものを感じ、この人の支えになってあげたい、と思うようになっていった。

その頃から二人の気持ちは急速に近づき、お互いに男と女を意識するところまで行くようになっていた。
しかし、お互いに家庭をもつ身。
これ以上深入りしてはいけないと思いつつも、その思いはだんだんと麻痺し、気持ちにブレーキがかかりにくいところまで来ていた。

その頃、急に夫がイライラするようになってきた。
会社で何かあったのかと聞いてみたら、そうではないらしい。
しつこく問いただすと、久美のメールを見たのだと言う。
メールの内容から、単なる友達に過ぎないことが分かるだけに、何も言えずにイライラがつのって行ったというのだ。

久美はハッとした。
まだ不倫までは進んでいないものの、自分の気持ちはすでにBに男性を感じているのだ。
おまけに、それ以上のことさえ望んでいる自分にも気が付いている。

久美は夫のイライラが原因で、自分が踏み込もうとしているところがとても危険な領域だというのがわかった。
世の中には不倫で家庭が崩壊することがとても多いことを知っている。
結婚式の日、自分だけはそうした間違いは犯さないようにしようと誓っていた。
今それを思い出したのだった。
しかし、そうは思っても、やはり会いたくなる気持ちを抑えるのは難しかった。
理性と欲望との間の葛藤が日増しに強くなり、それが一線を越えるのをやっとのことで留まらせていた。
毎日でも会いたい気持ち、できれば一線を越えてしまいたい欲望、しかし、片方ではとんでもないことをしているのだという罪悪感。
それが久美の心をどんどん暗くしていった。

Bは妻のグチを聞くたびに嫌気が増し、その反動なのか、久美に対する気持ちがつのって行った。
そして、離婚を考えるまでになった。

ある日Bは久美に自分の胸の内を吐露した。

  今の自分の心を和らげられるのは君だけなんだ
  あんな女だと分かっていたら結婚しなかった
  僕を助けられるのは君だけだ
  今ボクは離婚を考えている。

こうした言葉に久美の心は動揺した。

実は、この成り行きは生まれる前にわかっていたことだった。
久美からは、もし自分がこの状況を自力で乗り越えられそうにない時は阻止して欲しい、と頼まれていた。

案の定、久美は自分では乗り越えることができそうにない。
葛藤しながらもズルズル引き込まれている。
この状況は不良の友達に加担した時と同じだ。
約束どおり、私が乗り越えやすいように手助けをするしかなかった。
ただし、地上にいる久美にとって都合の良い手助けの仕方はできない。
全てを丸く治めることは、カルマを切るどころか、久美の成長にとってかえってマイナスになるからだ。
また、本人の自由意志をないがしろにすることはできないため、物理的な手助けしかできない。
私は久美の体調を崩して時間を稼ぐことしかできなかった。

Bの守護霊も必死にBのサポートをしていたが、空回りしていた。
久美が煮え切らない分、余計に思いはつのり、家族との不和は頂点に達した。
その時、Bの妻の守護霊も必死になっていた。

結果としては、それぞれのカルマが最大限に噴出し、Bは妻に包丁で刺され、重症を負った。
そしてBは妻と別れ、二人の子供を引き取って三人で暮らす道を選んだ。
妻は、父親と二人、悔恨の生活を送ることになってしまった。
久美はその顛末に震えあがった。
夫とはしばらくギクシャクしたが、しだいにそれも収まり、以前のような波風のない生活に戻っていった。

今回のBやその妻のこともそうだが、私は多くの守護霊の嘆きを何度も目の当たりにしてきた。
守護する者の利己性が強すぎる場合は守護霊の力も及ばず、とことん悪くなってしまうことがある。
その結果、死の間際まで追いつめられることも少なくない。
その際、自死を選ぶか、苦しみを乗り越えるかを選ぶのは本人の意思一つ。
そこまで追い込まれた守護霊も、また苦しい峠を乗り越えなければならない。

この三人の場合は最悪の事態になることだけは免れたが、もっと悲惨な状況になると、精神を壊して余生を送らざるを得なくなる場合もある。
人間の一番の尊厳である自由意志が使えない状況にまで追い込まれてしまうことほど、辛く悲惨なものはない。
それでも守護の役目に付いた以上、その人間を守り、成長させなければいけない。
守護霊の仕事は、根気と忍耐と苦悩の連続なのである。

その後の久美のことを話そう。
彼女に冷静さが戻り、今回のことは誰のせいでもなく、自分の弱さが自分をここまで追い込んだことを強く認識することができた。
そして、表面的な優しさは決して善ではないこと、理性を失ってはいけないこと、地上で不幸と見えるのは本当は不幸ではなく、いろいろと学ぶことのできる最良の出来事だということなど、多くを悟ることができた。

いや、私がそう語り、久美がそれを素直に受け入れることができたから、久美はそう悟ることができたのだ。
こうやって、体験をする中で一つ一つ悟らせていくのが私の仕事なのだ。
伝えたことを悟ってくれた時は、感無量の思いでいっぱいになる。

一連の出来事が終わり、久美が不倫に走らなかったのは私もホッとするところだ。
私はその褒美として久美にプレゼントをすることにした。

中学時代の盗難事件以来、交流が続いている友人のA子に、久美の家を訪ねさせた。
久美はA子に今までのことを話し、そこから何を得ることができたかを一気に話した。
A子もまた、自分の身の上に起きたことを話し、シルバーバーチの説いてくれている内容が自分の人生に大きく関わっていることを伝えた。

その話を聞きながら、久美は忘れていたことを思い出した。
A子は久美が結婚すると分かった時、そのお祝いとして「シルバーバーチの霊訓」を手渡していたのだ。
その時は興味が持てず、本棚の奥にしまいこんでいたのだが、今回はA子の話をきっかけにシルバーバーチを取り出してみた。
A子とあれこれ話すと、今まで体験したことがないほどの心の充実感を得ることができた。
それ以来、A子とは頻繁に会い、真理の話をする機会が増えた。
これでやっと、久美は真理にたどり着くことができ、真理を指針として成長する道が開けたことになる。
これが私から久美へのプレゼントだ。

今、久美は充実した人生を送っている。
体験してきた苦しみとシルバーバーチが説く内容とを照らし合わせることで、書かれてあることがだんだん分かるようになってきた。
しかし、まだ弱さをしっかり克服したわけではないので、今世でもう一度、弱さを克服するための出来事が起こされる。
もちろん、その時も精いっぱいサポートするつもりだ。
しかし葛藤はありつつも、今度は真理で自分の心を整理して乗り越えてくれるはずだ。
そして、その後は人の役に立つ人生へと切り替えていく予定になっている。

守護している者が苦しんでいる時、私たち守護霊は乗り越える本人よりずっと辛い。
しかし、乗り越えてくれた時は、本人よりも遥かに嬉しい。
どんなに辛くても、私たちは決して守護している人を見放したりはしない。
霊界に戻ってくる日まで、常に寄り添い、常に語りかけ、常に成長する方向に配慮をしている。
ただし、その配慮とは、本人が喜ぶことばかりではないけれど、磨かれた分は声が届きやすくなっているから悟ることは多くなる。

さて、久美の話はこれぐらいにしておこう。
次は、私が最初に受け持った霊の話をしたいと思う。
目覚めていない霊を目覚めさせる方法とはどんなものか、それを次回話すことにしよう。



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