ちょっとスピリチュアルな短編小説 No.3 「俺たちは腐ったミカンなのか !?」


ある真夜中のことだった。

「出て行け! もう二度と帰って来るな!!」
「ああ、言われなくたって帰ってなんか来るもんか!!」

父親と喧嘩をした佑磨は捨てぜりふを残し、改造バイクをブォンブォン噴かして、家を出て行った。

佑磨は中学後半から不良仲間に入り、両親を困らせることばかりしてきた。
せっかく入った高校は中退。
両親は不良仲間から抜けさせようとさせたが、お互いの気持ちがすれ違うばかりでうまく行かなかった。
そして、最後は喧嘩となり、佑磨が家を出て行くことになったのである。

それからしばらくの間、佑磨は友達の家を転々としていたが、それももう限界だと感じて、アパートを借りることにした。
しかし、アパートを借りるにはお金が要る。
今までは万引きやカツアゲをして小遣い稼ぎをしていたが、今回はなぜか真面目に働こうという気になっていた。
そして、バイクに乗ってバイトを探しに行こうとしていた時、トラックと接触事故を起こしてしまった。
不幸中の幸いとでも言おうか、命に別状はなかったが、転倒した時に右足首を骨折して入院した。

ある日の午後、休憩室でタバコを吸っていると、中学生ぐらいの男の子が話しかけてきた。
その男の子の名前は健次といった。
2人はすぐに意気投合した。
話は当然、お互いのケガの原因に及んだ。

中学生の健次は、車の少ない路地を自転車で走っていた。
左に曲がる時、スピードを落とさずに勢いよく曲がったため、右から走ってきた乗用車に跳ね飛ばされてしまったのだった。
こうした危ない走行をする人がよくいるが、健次もまさしくその類で、周りから「よく事故を起こさないね」、と言われるほどの危ない運転は日常茶飯事だった。

跳ね飛ばされた際、頭部をよほど強く打ったのか、その場で意識を失った。
何とか一命は取り留めたものの、体の右側に麻痺が少し出ていた。

今後の自分を考えると、健次の心は不安で一杯になっていた。
その上、身体に麻痺が残るとなると、やりきれない思いばかりが広がった。
あれだけみんなから、「危ない運転はやめなさい」と言われていたのに、粋がってスピードを出して走っていたせいだ・・・・・後悔してもしきれない。

ある夜のこと、佑磨は何やら胸騒ぎがして健次の病室へ行ってみた。
もう消灯を過ぎているのに、健次の姿はなかった。
もしかしたらと思って屋上に行ってみると、健次は隅の方でうずくまっていた。

佑磨に話しかけられて、健次は胸の奥に押し込められていたものが一気に溢れ出した。

「ボクなんていない方がいいんだ」と泣き出した。

何があったのか分からないが、とにかく健次の気持ちをほぐそうと、佑磨は懸命に話しかけた。
そんな佑磨の気持ちが伝わったのか、健次は少しずつ落ち着きを取り戻し、ポツポツと話し始めた。

兄ちゃんは成績が良いから両親のお気に入りなんだ。 自分は頭が悪いし、何をやってもダメだんだ。
両親の口から出てくるのは、兄ちゃんと比較される言葉ばかり。
この事故だって、僕が悪いのは分かっている。
でも、お母さんは兄ちゃんみたいにしっかり運転しないからだって言うんだ。
僕はお母さんから嫌われてるんだ。
こんな自分なんていない方がいい。
退院したらもっと厄介者になる・・・そう考えていた。

佑磨は健次の気持ちが痛いほどよく分かった。
なぜなら、佑磨もまた両親から疎まれていいると思っていた一人だったから。

そんな話をしている時だった。
フイに後ろから話しかけられた。

誰もいないと思っていた2人はとても驚いた。
その人は、看護師の麻紀だった。

麻紀 「ごめんね。全部聞いちゃった。  そっかあ、2人とも寂しいんだ。
    それと、2人ともご両親のことが好きなんだよね。
    だからそんなふうに言っているんだ。
    子供のことを心配しない親はいないってよく言うけど、あれはウソだよね。
    中には自分の子供を殺しちゃう親だっているぐらいだから。
    だけど、少なくとも2人のご両親は2人のことを心配してると思うな」

佑磨 「こんな不良なオレのことなんて、心配なんてしてるものか。
    俺たちは生まれてこない方が良かったんだ。 誰が生んで欲しいって頼んだんだよ」

麻紀 「君たちのご両親だって同じこと思ってるかもしれないわよ。
    こんな子供になると分かっていたら生まなかったのに、ってね。
    こんな話知ってる?
    親は子供を選べないけど、子供は両親を選んで生まれてきたってこと」

佑磨 「そんなことあるはずないよ」

麻紀 「それがあるんだなあ。 キミはね、あの両親のところに生まれるのが自分にとって
    一番最適だと思って、あの人たちのところに生まれることを決心して来たのよ。
    自分が忘れているだけで、両親も環境も、全部自分にとって必要だと思って選んだ
    のよ。
    私も最初はこんな話信じなかった。
    でも、いろいろあってね、今はあの両親のところに生まれたから今の自分があるんだ
    と思えるようになったの。
    一時は憎んだこともあったけど、今じゃ感謝に変わったぐらい。
    確かに自分はあの両親を選んで生まれてきたんだって思えるわ」

佑磨 「看護師さんは大人なんだ。
    だから、そんなふうに思えるんだ。
    オレの親だって大人なのに、看護師さんとは全然違う。
    親父なんてオレの顔を見れば怒鳴ってばかりだし、お袋なんて口を開けば小言
    ばかり。
    俺のことを心配してるんじゃなくて、世間体ばかり気にしてるんだ。
    やってらんねえよ、まったく。」

麻紀 「あのね、親といったって、まだ大人じゃない人だっているのよ」

佑磨 「だって、親は大人だろ?」

麻紀 「年齢だけはね。でも、もし本当に大人になっていたら、あんたたちのワガママなんて、
    うまく手玉に取れるんじゃないかな。
    君たちはわざと親を困らせたくて、というより、寂しいからわざと悪ぶっていただけじゃ
    ないの?
    一人の人間として認めて欲しかったんでしょ?
    自分の気持ちを理解して欲しかったのよね。」

佑磨 「・・・・・」

麻紀 「当たりね。
    でも、両親だって心は子供だから、ワガママを言われたら喧嘩を売られた気分に
    なって、言い返そうとするわけよ。
    ふてくされた態度を取られれば、小言だって言いたくなるものよ。
    キミたち同級生同士もそうじゃない?
    いつも売り言葉に買い言葉だし、自分の悪いところは棚に上げて、他人の欠点ばかり
    をつついているもんね。
    勉強ができないのは教師の教え方が悪いと言うし、自分が投げやりなのは親がグチ
    グチ言うからだと言うし、親は親で、子供が素直じゃないから腹が立つ、と言うし。
    両親だって身体は大人だけれど、心はキミたちと大して差がないわけよ。
    だから、キミたちが望むようにはしてくれないし、というよりできないのよね。
    もしキミたちが小学生ぐらいの子がワガママ放題言ってきたらどうする?
    うまく受け流せる?」

健次 「僕はできないと思う。すぐカッとなるから。」

佑磨 「俺だったら、そんなヤツ張り倒してやるよ」

麻紀 「ほらね。 同じじゃない。 自分だってできないのに、大人だからといってそれを求め
    ても無理というものよ。
    それは学校の先生だって同じ。 学歴と心は比例しないの」

佑磨 「俺は学校でも家でも厄介者だったんだ。 でも、今なんとなくわかったような気が
    する。
    自分が悪いことをしておいて、親とか先生たちに不良のレッテルを貼るなと言うのは
    矛盾しているよね」

麻紀 「おおっ、君は少し大人に近づいたね。
    すごいよ!
    そうなんだよ。
    みんなそれぞれに自分勝手な気持ちを持っているけど、自分勝手だった、と気がつく
    かどうかが本当の大人への第一歩かもね」

佑磨 「だけど、俺たちみたいな厄介者は腐ったミカンなんだろ。 腐ったミカンが一つでも
    あると、他の子に伝染していくって言われたことがある。
    お前たちなんてゴミだとか雑草だと言われたこともあるし」

麻紀 「ひどいこと言う人がいるのね。 そいういうこと言う人って本当は子供だと思うな。
    あのね、人間はミカンでも雑草でもないの。 ミカンは腐ったら棄てられるだけだけど、
    人間はたとえ一時は腐っても、自分の気持ち一つで最上級のミカンになることだって
    できるの。
    ゴミだって、うまく使えばリサイクルできるしね(笑)
    それと、雑草っていう名前の草花はないのよ。
    きれいに咲くバラだって、嫌いな人から見たら雑草だし、ペンペン草だって、好きな人
    から見たら、心を癒す花なんだから。」

健次 「そう言われてみればそうだね・・・」

佑磨 「みんな自分のことしか考えていないから、腐ったミカンとか、雑草なんていう言葉に
    なるんだね」

麻紀 「そうそう、そうなのよ。 キミ、良いこと言うじゃない。」

佑磨 「なんだか今まで全部反対のことしてたような気がする。
    俺は、母さんや父さんと本当はちゃんとした話がしたかったんだ。
    でも、うまく言えないし、言えば「あとで」って言われて適当にはぐらかされるし。
    今思えば、自分の方をちゃんと向いて欲しかったんだけなんだ。
    オレってバカだったなあ。
    そうかあ、親たちはみんな子供なんだ。
    だったら俺たちがちゃんとした大人になればいいわけだ」

麻紀 「良いことに気がついたわね。 私もそう思うわ。
    ところで佑磨君。 君の入院費がどうなっているか知ってる?」

佑磨 「バイトして返そうと思っていたけど」

麻紀 「君は知らないだろうけど、昨日ご両親が見えて、払っていかれたわよ。
    来たことが分かると君が嫌がるから、内緒にしておいて欲しいって言ってたわ」

佑磨 「払ってくれたんだ・・・」

麻紀 「それと、健次君。
    君のご両親もそうよ。
    お母さんがおっしゃってたけど、本当は君のことが可愛いくって仕方がないんだって。
    君のことは可愛いと思えるのに、なぜかお兄さんのことは可愛いと思えなくて、
    悩んで、悩んで、お兄さんにいつも申し訳ないと思っていて、
    お兄さんに気を使っていたんだって。 お兄さんを無理して可愛がっていたことが、
    君に対して裏目に出てしまったっておっしゃってたわ。
    お母さんも心の整理をするのが大変みたい」

健次 「知らなかった・・・」

麻紀 「2人とも、君たちのご両親は君たちを手玉に取れるほど大人じゃないって事、しっかり
    覚えておいてね」

2人 「なんだか看護師さんの話を聞いて、ちょっと大人になったような気がする」

麻紀 「それともう一つ。 試しに自分からにっこり笑いかけてごらん。何かが変わるから」

健次 「何が変わるの?」

麻紀 「それはやってみてからのお楽しみ。
    それじゃあ大人の仲間入りをしたお2人さん、病室に戻ろうか」


2人とも、その日の夜は心が落ち着き、満たされた気持ちになっていた。
そして、翌朝、2人は両親に電話をした。
今までのことを謝り、これからは素直になることを約束した。
電話の向こうで、すすり泣く母の声がした。



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