ちょっとスピリチュアルな短編小説 No.2 「雨の日に」


啓子は私立高校の2年生。
その日は朝早くから雨が降っていた。
雨の嫌いな啓子は母親に、
「ねえ、乗せてってよ」、と頼んだけれど、母親は
「頑張って行きなさい。 雨だって考えようじゃあ良いものよ」
とすげなくかわされてしまった。
啓子は仕方なく傘をさして家を出た。

「雨の日が良いなんてこと、あるわけないじゃない。
 服も靴も濡れるし、電車の中なんて最悪。
 他の人の傘でもっと濡れちゃうんだもん」
啓子はユウウツな思いで駅へ向かって歩いた。

駅で電車を待っていたら、5歳ぐらいの女の子と、そのお母さんらしき人が目に入った。
どうやら同じ電車を待っているらしい。

電車が着いて、啓子はその親子と同じ車両に乗った。
親子はドアのところに立って、何やら楽しそうに話をしていた。
啓子は聞くともなしに耳を傾けた。

「ねぇママ。 雨ってどこから降ってくるの?」
そのとき啓子の頭に浮かんだのは、
「雨は海の水が蒸発して、それが雲になって上空で冷やされて・・・」

母親は子供に
「天国から降ってくるのよ」 と言った。
「天国から?」
「そうよ。 雨はね、神様からの贈り物なの。
 いつもママがお花にお水をやっているの、知っているでしょ?」
「ウン、知ってる」
「ママがお花にあげるお水と、神様が下さるお水はぜんぜん違うのよ」
「何が違うの?」
「神様が下さるお水にはね、生きる力がたくさん入っているの。
 水道のお水をあげた後より、 雨が降った後の方がお花が生き生きとしてるの」
「ふーん」
「それにね、雨が降った後の方がお花がたくさん咲くし、背丈も大きくなるのよ」
「神様のプレゼントって、すごいんだね」

啓子はそのやり取りを聞いて、自分が考えたことは余りにもつまらない発想だと思った。
それと同時に、その親子のやり取りを聞いて、心が温かくなっていたのを感じた。

そうか、雨って神様からの贈り物だったんだ。
そう考えると、雨の日がイヤな日ではなく、希望の日に思えてきた。
そういえば、アフリカの大地では全ての動植物が雨が降るのを待っているし、
日本だって、雨が降らないと水不足になって困ってしまう。
雨って大切なんだ。

今まで当たり前に思ってきたこととか、イヤだと思っていたことが、本当はとても
スゴイことだったと気付かされた。
「もしかしたら、すごく嫌だと思っていることが、本当はすごく大切だってこと、
 他にもあるかもしれない。」
そんなことも考えた。

啓子は電車を下りて学校へ向かって歩きながら、ふと空を見上げてみた。
雨がキラキラ輝きながら、次から次へと自分に向かって落ちてくる。
全部の雨が自分に向かってゆっくり落ちてくるように思えた。

今まで、自分は大した人間じゃないし、いてもいなくてもどっちでもいいように思っていた。
でも、雨が自分に向かって、自分を包むように落ちてくるのを見て、そうじゃないと感じた。
雨は本当に神様からの贈り物なんだ。
私だって愛されているんだ、忘れられていないんだ。

そう思ったら涙が溢れて止まらなくなった。
涙で一杯の目でもう一度空を見上げたら、雨がもっとキラキラ光って見えた。



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