スピリチュアル・カウンセラー 天枝の日誌 (9) 「初めての読書会」


一生懸命頑張っている時は何の進展もなかったのに、ある日突然、念願の読書会を開くことが可能になった。

天枝は常日頃から使枝とよく話し合うのだが、それ以外に、以前出席したことがある読書会で出会った人とも時々連絡を取り合っている。
久しぶりにその人に電話をして、天枝にしてはめずらしく長話をした。

その人が言うには、いくら霊的真理を広めるため、霊性開発を目的としているとはいえ、前もってスピリットが全てお膳立てしてくれるものではない、どうやら霊的な関門があるようだと。
別の言葉を使えば、「試される」とでも言ったらいいのだろうか。

電話を切ってから、その人が話してくれたことと、自分が辿って来た経緯に思いを巡らしてみた。
思い当たる節がいろいろある。
天枝たちの決心が本物かどうか、それをテストされているように感じることが、確かに何度もあった。

霊的真理を学び始めると、中には一気に燃え上がり、この利己的社会を変えるには霊的真理を広めなければいけない、そのためには自分も道具になって霊的真理を広めよう、これは自分の使命なんだ! 自分が世の中を変えてやるんだ! と決心して行動に移す人がいる。

自分でさえ真理を受け入れることができたんだから、他の人もすぐに受け入れてくれるだろう、と思うのだが、現実はそんなに簡単にはいかない。
そうすると、自分にはできない、自分はなんて能無しなんだろうと自己嫌悪に陥る。
天枝も最初はこうした轍を踏んだのち、今に至っている。

『石の上にも3年』というのは、霊的なことにも当てはまるのかもしれない。
霊的な関門を通るまでは、誰一人として耳を傾けてくれないし、むしろ、怪訝な目で見られることの方が多い。
そうした状況が続くと最初の決心は次第に鈍り、やる気が失せ、徐々に元の生活に戻って行ってしまう。
残念なことだが、このような人は意外と多い。

天枝は、こうした状況は恋愛に似ていると思っていた。
一目惚れをした男女はすぐに燃え上がるが、少しでも壁ができたり、相手が自分の思い通りに行かなくなるとすぐに嫌になってしまう。
スピリチュアリズムの世界と恋愛は違うが、そのパターンは似ているように思う。

こんな恋愛的な感情で燃え上がった決心では、スピリットたちが認めてくれるわけがない。
燃え上がった気持ちが収まってもなお決心が揺らがず、理解されなかったり反論されたりしても、前に前に進もうという気概が続くことで、本物だと認められるのだろう。
認められて初めて、スピリットたちが用意してくれた展開へとやっと進ませてもらえる。
今回の天枝たちの動向は、まさしくこのパターンと一致していた。

もちろん普通の生活をしながら、思いついた時に霊的真理を伝える緩やかな道もあるが、天枝と使枝はそうした道は選ばず、厳しい方を選んでしまったようだ。

初めての読書会に向けて、天枝と使枝は、それぞれに何度も霊訓を読み返した。
そして、2人とも同じように、「読めば読むほど広さと深さを感じるし、しっかりやろうという気持ちにさせられるね」 と感想を言い合った。

自分たちのことはさて置いて、何をどう進めて行ったらいいのか・・・
あまり細かく設定すると、きっと計画倒れになってしまう。

今までを振り返ってみると、最初に計画したこととは全く違う方向に進んでしまうことが度々あった。
綿密に計画を立てれば立てるほど、計画通りに行かなくなり、時には立ち往生してしまい、何とも言えない無力感に襲われた。

以前、天枝と使枝にもう一人が加わって、3人で読書会らしきことをしたことがある。
シルバーバーチを理解したいということだったので、事細かに準備をし、説明する箇所と、どう説明するかまで念入りに計画を立てた。

ところが、いざ始まってみると、その人は自分の悩みを打ち明け始め、シルバーバーチの内容どころか、お祈りさえまともにできない状況に進んでしまい、読書会はそれっきりになってしまった。
なぜこうなってしまったのかを幾度も話し合った結果、反省点はいくつか出たが、最後には、あの人は時機ではなかった、私たちとは霊的に合わなかった、という結論に達したものだ。

これに似たようなことを数回体験してきているので、今回からの読書会は、最初と最後の祈り、そして、各自の感想を言い合う、これだけの計画にして、あとは成り行き任せにするつもりだ。
ただし、霊的真理を学ぶ、というラインからは決して逸れないことだけを心に留めた。

読書会を開くにあたって一番気を付けなければいけない点、それは自分が真っ先に霊的であること。
そのために食生活には気を付け、嗜好品にも気を付けた。
自分はヒーラーではないから、そこまで徹底しなくても良いとは思ったが、霊的エネルギーを充満させておくためには、やはり、普段の生活を清貧に保つことを怠るわけにはいかない。
少なくとも、迎える側としては、それが最低の条件だと思ったからだ。

       ☆     ☆     ☆

土曜日の朝が来た。
2人は念入りに掃除をし、松本さんと塩谷さんを迎える準備をした。
いつもの掃除と変わりないのだが、早く準備をしたいと思い、焦っている。
焦りは禁物というのは分かっているのだが、後ろから押されているような感じがしてならない。

いつもより早めに掃除が終わり、天枝と使枝はソファーに座った。
そして黙って目を瞑り、しばらく瞑想をしたのち、短い祈りを捧げた。

10時になり、「おはようございます」と言いながら、2人がエテルナに入って来た。
2人の様子は、いつになく緊張しているように見える。

4人は向かい合ってソファーに座った。
松本さんと塩谷さんは、まるでまな板の鯉のように、天枝が何か言いだすのを待っている様子だ。

天枝はその気持ちをくみ取り、読書会への姿勢を話すことにした。
何しろ最初が肝心。
最初に雑談から入ると、これから毎回雑談から入ることになる。
そうすると、雑談に花が咲き、霊的な雰囲気はどこへやら、ということにもなりかねない。

天枝は、次のようなことを話した。

天枝 「今まで何人かの方とシルバーバーチを理解するための質問を
    受けたことがありますが、なかなか読書会という形にまで
    行きつくことができませんでした。
    今回、塩谷さんがきっかけとなって、読書会を開くことができる
    運びになったことを、この上なく感謝しています。
    それで、どんな読書会にしていきたいのか、私自身の希望を少し
    述べさせていただきますね。

    シルバーバーチの交霊会がそうであったように、始まりと終わり
    には祈りを捧げたいと思います。
    始まりは私が祈ります。
    目には見えなくても、必ず背後にスピリットが居て応援してくれ
    ているのを感じ取るようにしてみてください。
    神の霊的エネルギーを受け取り、霊性を研ぎ澄ますためです。
    これは、神とスピリットたちに対する礼儀でもありますし、
    自分自身が霊的エネルギーを受け入れるためのステップと考えて
    頂いてもかまいません。
    最初に雑談をすると、せっかく研ぎ澄まされた霊性が澱んでしま
    いますから、控えたいと思います。
    そして、お2人が慣れてきて、自分も祈ってみたいと思われたら、
    その時にお祈りしてみてください。
    1人で祈っている時とは全然違った感覚になると思います。

    途中、もし話がスピリチュアリズム以外のことに発展しそうに
    なったら、私か使枝のどちらかが、それとなく話を戻しますの
    で、くみ取って頂けたらと思います。

    とりあえず、私からはこれだけお話しておきたいと思います
    ので、よろしくお願いします。
    これについて、何か質問はありますか?」

塩谷 「天枝さんはスピリットの声が聞こえるんですか?」
天枝 「いいえ、残念ながら、私にはそういう力はありません。
     でも、感じることはできます。」
松本 「どんなふうに感じるのですか?」
天枝 「どんなふうに・・・これは説明が難しいです。
     感じるとしか言えないので・・・」
使枝 「私の場合ですけど、目を瞑って気持ちを集中させると、研ぎ澄ま
     された感覚になり、自分の考えではないインスピレーションが
     湧くんです。
     そのインスピレーションがスピリットからのメッセージだと
     思うんです。」
天枝 「そうそう、そう言う表現がぴったりだわ。
     使枝さん、ありがとう。
     とりあえず、まずお祈りを始めたいと思います」

天枝の祈りが始まった。

 「天にいらっしゃる大霊様、イエス様、そして地上を浄化しようと
  懸命になっておられるシルバーバーチを代表とするスピリットの方々。
  こうして、あなた方の力によりまして、読書会を開かせて頂けること
  を、心から感謝申し上げます。

  私たちは、大霊様の手足となって、1人でも多くの魂を霊的真理で
  啓発できるように、霊訓を何度も読み、理解を深め、霊的視野を広く
  して行きたいと思います。
  未熟で力も足りませんが、スピリットの方々から霊力を降り注いで
  いただくことで、きっと深く理解でき、霊的エネルギーが蓄えられる
  ものと思います。
  どうぞ、1人1人の霊性を揺さぶり、語りかけてください。
  そして、この読書会を、大霊様からの愛で満たしてくださいますよ
  うに・・・
  では、只今から、始めさせていただきます。(祈)」

こうして、第1回目の読書会が始まった。

天枝 「では、第1回目の読書会を始めたいと思います。
     各自、第1章を読んで来られたと思いますが、まず、自分が
     気になったところとか、感動したところなど、何でもいいので
     話していただけますか。」

松本 「読んだ感想とは違いますが、夕べから今朝ここに来るまで、
     いつもの自分とは全然違う感じなんです。
     自分がとてもピュアと言いますか、それと、心がすごく充実
     していて、気分が良いんです。
     心が精密になっているというか。
     自分にもこんな部分があったんだなあと、再発見した感じ
     です。」

塩谷 「あ、そう言われれば、俺もそうだ。
     今までは、花金はツレと一杯飲みに行ったり、DVDを借りて
     見たりしてたけど、夕べは一生懸命、霊訓を読んでた。
     何だか自分が透明だけど中身が濃い感じがしてさ、変なDVDを
     見たり、お酒なんか飲んだら、せっかくの今の自分がくすんで
     しまいそうでさ。
     というより、その気にならなかったってとこかな。
     こんなこと初めてだよ。」

使枝 「塩谷さんって、正直な方ですね。(苦笑)」

天枝 「心が精密とか、透明だけど中身が濃い、という感じは良くわかり
     ます。
     お祈りしている時はいつもそんな感じになりますから。
     精密と言うより、精緻という方が近いかもしれません。
     でも、これだけ多くの霊的エネルギーで満たされたのって、
     初めてかもしれない。」

塩谷 「へえー、そうなんだ。
     天枝さんの場合はそうだとしても、俺も霊的エネルギーで満た
     されてたのかな。」

天枝 「ええ、自分では分からなくても、スピリットから直接受け取って
     いると思います。」

塩谷 「へえー、スゴイなあ。
     この感覚を忘れないようにしなくっちゃなあ。
     俺さあ、何度も読み返したんだけど、読めば読むほどわからない
     ことだらけになっちまった。
     だから、松本さんから何か言ってくれないか。」

松本 「わかりました。
     実は、一番最初から躓きましてねえ。

      『いったいあなたとは何なのでしょう。
       ご存知ですか。
       自分だと思っておられるのは、その身体を通して
       表現されている一面だけです。
       それは奥に控えるより大きな自分に比べればピンの
       先ほどのものでしかありません。』

     というこの箇所です。
     前に読んだ時は何とも思わなかったんですがねえ。」

塩谷 「そうそう、この箇所、実は俺もなんです。
     自分は自分だし、自分のことは自分が一番よくわかっている、と
     ずっと思って来たんだけど、
     これが一面だけというのはどういう事なんですか?
     奥に控える、より大きな自分って・・・」

天枝 「ここで躓く方って、結構多いんですよ。
     これを理解するには、大我と小我、類魂、というような内容を
     理解すれば分かるようになると思いますから、今は保留にして
     おきましょう。
     全て余すところなく理解しながら読み進んでいくのは、賢明では
     ないと思います。
     理解できないところは保留にして読み進めて行った方が良いと
     思います。
     すると、ある時急に、ああ、こういう意味だったのか、と理解
     できることがありますから。」

使枝 「私も最初ここで躓いたけど、飛ばしてどんどん進めて行ったこと
     を思い出したわ。
     今日は第1回だし、疑問に思うところを出すのもいいけど、
     感動したところとか、納得したところを聞かせてほしいな。」

天枝 「そうね、その方がシルバーバーチがより身近になると思う。」

松本 「なるほど、そういう読み方ですか。
     では、26ページですが、前に読んだ時は分からなかったけ
     れど、昨日から今日にかけて自分でピュアだと感じている部分
     ですが、これかなあと思いました。

       『霊的部分が本来のあなたなのです。
        霊が上であり身体は下です。
        霊が主人であり身体は召使いなのです。
        霊が王様であり身体はその従僕なのです。
        霊はあなた全体の中の神性を帯びた部分を言うのです。』

     うまく説明できませんが、ピュアな自分、いやそれよりもっと
     崇高な自分が上で、普段の自分は下というか。
     崇高な自分だと感じたのが本来の自分で、それが霊であるという
     ことなのかなと思います。
     身体は本能で動かされているから、確かに身体より霊の方が上
     だと思います。
     本能は身体を維持していくのには必須だけれど、利己的です
     からね。
     そう思うと、雑事に追われて生活している間は、本当の自分は
     隠れてしまっている、ということになりますね。」

塩谷 「ふむふむ・・・そういうことですか。
     そう言われると、俺にもわかります。
     今までの自分と違う自分を感じたから、これが『自分は霊』って
     ことなのかなと。
     霊の部分と比べたら、今までの俺はなんて下らない人間だったの
     かと思うよ。
     つまり、目覚めてなかったってことなんですね。」

使枝 「なるほど、そう感じますか。
     私はちょっと違っていて、崇高だと感じる部分は確かに霊の部分
     だけど、それは神と繋がっているからだと思うんです。
     神と繋がっているから神性だと言えるわけで。
     他の箇所で『自分は神の一部分』というのが出てきますが、
     これが松本さんが言われる『ピュアだったり崇高である部分』
     じゃないかと思います。」

塩谷 「そうかあ、そういう事ですかあ。
     深いなあ。」

天枝 「でも、崇高だと感じていなくても、神と繋がっています。
     神と繋がっていなくては、生きてはいられないですから。
     『霊とは何か』を様々な人が定義しているけれど、説明の仕方は
     人それぞれです。
     ただ、言葉で説明するには限界があるので、万人が簡単に理解
     できるように説明することはとても難しいと思います。
     自分には『神と繋がることができる崇高な部分』がある、という
     ことに気が付いた、実感した、というのが一番良い理解の仕方
     ではないでしょうか。

松本 「そうですね、突き詰めて言葉で表そうとすると、きっと表し
     きれないでしょうから、それぞれが『崇高だと感じた部分』、
     ということでいいのかもしれません。
     私もその方が納得できます。」

天枝 「では、塩谷さんはどこか感動したとか、考えさせられた箇所は
     ありました?」

塩谷 「有り過ぎだけど、一番気になったのは27ページです。

      『身体はあなたが住む家であると考えればよろしい。
       家であってあなた自身ではないということです。
       家である以上は住み心地よくしなければなりません。
       手入れが要るわけです。
       しかし、あくまで住居であり住人ではないことを
       忘れてはなりません。』

     ここは、ただただ納得したと言うか、霊が健康でいるためには、
     身体も健康でなくてはいけないってことですよね。
     俺は栄養のバランスを考えるというより、腹が一杯になれば
     いい方だからなあ。
     それに、ヘビースモーカーだし、運動だってしてないし、
     へへへ。
     今はタバコが高くなったから減らしているけど、これを機会に
     禁煙しようかな。」

松本 「その方が良さそうですね。
     思った時が吉日ですから。
     ところで、塩谷さんはおいくつなんですか?」

塩谷 「もうすぐ35になります。
     いまだに貧乏な独身貴族ですよ。」

松本 「ほおー、息子より年下なんですね。
     そんな若い人と一緒に学べるとは、嬉しいです。
     息子もこうして学んでくれるといいのだが」

天枝 「松本さんは、どこか感動したとか、気に入った個所はありま
     した?」

松本 「あ、失礼しました。
     そうですねえ・・・31ページですが、

      『全てが陰気で暗く佗しく感じられるこの地上において
       元気づけてあげることができれば、それだけであなたの
       人生は価値があったことになります。
       そして1人を2人に、2人を3人としていくことが
       できるのです。』

     私はもう70を過ぎましたから、大したことはできません。
     でも、周りを見てみると、過去の苦しみから逃れられずに、
     いまだに苦しんでいる人、悲しみを抱き続けている人が
     たくさんいます。
     私は、その人たちの人生を立ち直らせることはできないけれど、
     話を聞いて勇気づけてあげたり、笑顔になってもらうようにして
     あげることはできると思います。
     シルバーバーチが、『それだけであなたの人生は価値があった
     ことになります』と言ってくれていますから、自分の余生の
     中心にしたいと思います。」

使枝 「実は、私はこの言葉に慰められた一人なんです。
     学生時代に色々とあって、楽しい学生生活ではなかったんです。
     この箇所を読んで、これなら私にもできる、人間として生きて
     行ける、って思ったら、ウジウジしている自分が小さく見えて
     きて、新しく出発しようと思えたんです。」

天枝 「そうねえ、そう言えば暗い時期があったものねえ・・・」

使枝 「天枝さんはどの箇所が気になったの?」

天枝 「32ページ。

      『霊的進化というものは先へ進めば進むほど孤独で
       寂しいものとなっていくものです。
       なぜなら、それは前人未踏の地を行きながら後の者の
       ために道標を残していくことだからです。
       そこに霊的進化の真髄があります。』

     自分が霊的真理を理解すればするほど、逆に私が話すことを
     理解してくれる人が少なくなってきたように思うんです。
     今は使枝さんが居てくれるけど、それに気が付くまでは、私が
     話すことには誰も耳を貸してくれないし、他の読書会に出ても
     誰とも合わなくて、ずいぶん寂しい思いをしたの。
     魂が開花していない人に理解してもらえないのは仕方がないと
     しても、真理を学んでいる人と感覚が合わないのは、本当に
     寂しいものです。
     でも、それは自分が少なからず進化した証なのかなと思うと、
     喜ばなくっちゃいけないなあって思えるようになりました。
     先に進めば進むほど孤独な道になるらしいけど、孤独を感じる
     分、スピリットたちの存在がはっきりしてきて、これはこれで
     充実するかもしれないわね。」

塩谷 「ふうーん、そんなもんですかねえ。
     俺にはまだまだ分からない境地だな。」

松本 「私は分かる気がします。
     私がシルバーバーチを知ったきっかけは妻だったんですけど、
     その妻は霊的真理には全く興味を示しません。
     妻が喜ぶのはお金がかかることですから、いやになりますよ。
     シルバーバーチを読めば読むほど、妻との距離が開くように
     感じるんです。
     でも、これも仕方がないことなんですよね。」

使枝 「価値観が違ってくると、今までどおりに付き合うのは難しく
     なりますよね。
     私も、仲の良かった友達と話が合わなくなりました。
     今でも時々会っていますが、私の方が譲歩して話を合わせている
     感じです。」

松本 「ああ、やっぱりそうなんですか。
     妻が受け入れてくれれば言う事なしなんですが、難しいもの
     です。」

塩谷 「あ、話していいですかね。
     俺は34ページのこの言葉を読んだ時、度肝を抜かれましたよ。

      『霊性を一切行使することなく生活している人間は、
       あたかも目、耳、あるいは口の不自由な人のように、
       霊的に障害のある人と言えます。』

     とあるんですから。
     とりあえず霊的真理を受け入れることができるようにはなった
     けれど、まだまだ霊的な障害があるということなんだろうな。
     早く、正常な人間になれるようにしなくては、ってね。」

使枝 「でも、今は霊的な障害が少しずつ払拭されつつあるわけですから、
     素晴らしいと思います。
     こんどは、出会った誰かの障害を払拭できるように手助けして
     あげればいいということですものね。」

塩谷 「そうか、そうだよな。」

天枝 「私がチラシを配っている時に力になってくれたのが、35ページ
     のこの言葉なんです。

      『どうか、何処でもよろしい、種を蒔ける場所に一粒でも
       蒔いて下さい。
       冷やかな拒絶に会っても、相手になさらぬことです。
       議論をしてはいけません。
       伝道者ぶった態度に出てもいけません。
       無理して植えても不毛の土地には決して根づきません。
       根づくところには時が来れば必ず根づきます。』

     エテルナを開店したのも、原点の一つはこれなんです。
     結果はどうあれ、とりあえず種蒔きをしなくては、芽も出ない
     わけですから。」

使枝 「そうねえ、天枝さん、ナーバスになるといつもそう言って自分を
     勇気づけていたもんね。」

松本 「そうなんですか。
     私にとってはまだまだ先の境地ですな。」

使枝 「それと、これは今でも良く言ってるよね。
     1章の最後だけれど、

      『宇宙の大霊である神は決して私たちを見捨てません。
       従って私たちも神を見捨てるようなことがあっては
       なりません。
       私たちはどうあがいたところで、その神の懐の外に
       出ることはできないのです』

     この信念を持っていると、絶対に揺らがないって、天枝さんを
     ずっと見てきてそう思った。」

塩谷 「『私たちはどうあがいたところで、その神の懐の外に出ることは
     できないのです』、という言葉は、なんだかお釈迦様の手の平
     の上で孫悟空が飛び回っているところを想像してしまうな。
     実際に、俺たち人間も同じだってことですね。
     自分から神様は見えないけれど、神様からはすべてお見通し
     というか。」

松本 「お釈迦様と孫悟空ですか、面白い発想ですね。
     いくら人間が意気込んだとしても、所詮は神の手の内にある、
     ということなのでしょうか。
     そう思うと、何だか安心します。」

塩谷 「そうそう、雑談はダメということですが、お互いを知るためにも
     そう言う時間が欲しいです。」

天枝 「そうですねえ・・・
     それなら、読書会とは別に、個人で会ってお話したらいかがで
     しょう。
     私の気持ちとしては、読書会と雑談の集まりは別にしたいので。」

使枝 「別の日にここに集まったらどうかしら。
     そうすれば、心置きなくお話しできますよ。」

天枝 「とりあえず、お互いに感想を言い合って、一端終わりにしましょ
     うか。
     私から感想を言いますね。
     とにかく第一回ということで昨日からずっと緊張していたけれど、
     松本さんも塩谷さんもしっかり読んでから来て下さったので、
     とても良い運びになったように思います。
     お2人が話されたことは、私にはとても良い刺激になりました。」

松本 「天枝さんも使枝さんもまだお若いのに、何だか私より年上に感じ
     ます。
     これが、霊的な年齢ということなんでしょうか。」

天枝 「霊的真理の理解は、多少は進んでいると思いますが、永遠という
     観点から見たら、差はないですよ。
     シルバーバーチと私たちだと3000年の差があるけれど、これ
     だって何億年も経てば大した差じゃなくなりますから。」

塩谷 「そこまで大きなスケールで考えますか(笑)
     確かに天枝さんの言われる通りだ。
     俺は、今まで味わったことがない緊張感を味わいました。
     一人で読んでいるよりインスピレーションが湧くというか、理解
     が進んだように思います。
     これからが楽しみです。」

松本 「私も1人で読むのも悪くはないけど、みんなの話を聞くことで、
     更に理解が深まると思いました。
     自分だけで読んでいると、どうしても自分の領域を抜け出せませ
     んから。
     これって、ここにいるのは自分たちだけじゃなくて、スピリット
     たちがいてくれて、深く理解できるように促してくれているの
     でしょうか。
     とにかく、味わい深い時間でした。」

天枝 「感想をありがとうございました。」

使枝 「それでは、最後のお祈りをしたいと思います。

     『大霊様、イエス様をはじめとする霊団の皆様。
      始めての読書会を最後まで霊的真理から逸れることなく
      導きくださいまして有難うございました。
      私たちは未熟だからこそ霊的真理を学び、何を行動すべきか
      を自分で吟味できるようにならなければいけないと思って
      います。
      ともすれば俗世に惑わされ、俗世の価値観に振り回される
      こともありますが、そうした時こそ自分で軌道を修正できる
      ようにしっかりと真理を学んで行きたいと思っています。
      機が熟して行うことができた読書会を、大霊様の愛とエネル
      ギーがスピリットの方たちによって私たちに届けられ、
      研ぎ澄まされた霊性を持続させていただきましたことを
      心から感謝いたします。(祈)』」

天枝 「では、以上で終わりたいと思います。
     また来週お待ちしています。
     次は第2章ですから、よろしくお願いします」

松本さんと塩谷さんは、それぞれに礼を述べながら帰って行った。
帰り際に2人が話しているのがチラッと聞こえたのは、別の日に2人でまたここに来て、天枝と使枝の経歴などを聞き出してみよう、ということだった。
まあ、それもいいかもしれない。
天枝はそう思うと、2人の年上の弟たちを愛おしく感じた。

さて、午後はエテルナを開店させなければいけない。
心地良い緊張感あふれた時間は、すぐさま俗世の慌ただしい時間に戻って行く。
イエス様が伝道に出られた時の気分もこんな感じだったのだろうか。
いやいや、こんなに充実した思いではなく、もっと荒んだものだったに違いない。

そんなことや、松本さんと塩谷さんが発言したことなどを思い返しながら、天枝と使枝は店を開ける準備を始めた。



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