ちょっとスピリチュアルな短編小説 No.6 「霊界へ戻った話 その1」


真美は障害者の働く作業所で多くの人たちのお世話をしている。
結婚はしていたが、子供に恵まれなかったため、良いことをすれば子供に恵まれるかもしれないという不純な動機で始めたボランティアだった。
しかし、続けているうちに、ボランティアに人生全てを懸けるほど熱心になっていった。

真美には疑問に思っていることがある。
それは、二人の宗教家が言った言葉だった。

 「障害というのは、先祖が悪いことをした報いです。
  本人はもとより、この障害を治せない限り、家族も天国には行けません。
  全員が天国に行くには、教祖様が念を入れてくださる数珠を購入しなさい。
  その数珠で真剣にお祈りすれば、障害が治らなくても天国に行けます。」

 「前世で悪いことをしたから、今こうした罰を受けているんです。
  その罰を回避するには、お布施を出して、お経をあげることを通して
  開祖様におすがりするしかありません。
  それでも障害が治らないなら、それは信心が足りないからです。」

その言葉を聞いた時、真美は悲しみでいっぱいになった。
健常者にいろいろな人がいるように、障害者もいろいろな人がいる。
確かにカルマが深いと思えるような障害者もいるが、とても純粋で天使が降臨したのではないかと思えるような人もいる。
だから、二人の宗教家が言った言葉に、真美は納得できないでいた。

そんなある日のこと、真美が障害児のA君を引率しながら道を歩いているところに、一台のトラックが突っ込んできた。
・・・二人とも即死した。

ところが、真美は意識を取り戻した。
目を覚ましたけれど、頭がボーっとして自分がどこにいるのかわからない。

 「私、どうしたのかしら。・・・突然目の前が真っ暗になって・・・」

回りを見まわしてみたら、多くの人が黒い服を着て並んでいるのが見えた。
どうして自分はこんなところにいるんだろう。
真美は不思議に思ったが、目を凝らしてよく見たら、並んでいる人たちは、どうやらお焼香をしているらしかった。

「もしかしたら、お葬式? でも、誰の? 私も並ばなくちゃいけないのかな。」

写真を見て驚いた。
自分とA君2人の写真が並んで飾られていたのである。
すると、不思議なことに、焼香している人の心の声が聞こえてきた。

 ・あんなに一生懸命働いてくれる人は他にはなかったから、残念だねえ・・・
 ・二人とも、向こうへ行ったらゆっくり休んでください・・・
 ・今までありがとう・・・
 ・真美さんがいなくなると寂しいよ・・・
 ・A君、お疲れ様・・・
 ・真美さんの分まで頑張ります・・・

そんな声が聞こえてきた。
すると、同僚が受付にいるのが見えたので、そちらに駆け寄った。

 「ねぇ、 これってどういうこと? ま、まさか私、  死 ん だ ?
  佐藤さん、前田さん、教えて!」

いくら叫んでも、真美の声は同僚たちに聞こえていないようで、佐藤さんも前田さんもハンカチで目を押さえているだけだった。

その時、自分のすぐ左側にA君がいるのに気がついた。
どうやら真美の存在には気がついていないようだった。
A君は一人ぽっちになった寂しさと不安でいっぱいになっているのがわかった。
何度も話しかけたが、真美の声は聞こえていないようだった。

そこへ放射状の光の集まりが現れた。
その光の中心には美しい女性がいて、その人がA君の手を取ったと思ったらA君は光に包まれ、二人ともスーッと消えて行った。
それはとても美しい瞬間だった。

すると、入れ替わるように別の光が現れた。
光の中心にいる人に見覚えはなかったが、なぜか懐かしさでいっぱいになった。
言葉を交わさなくても、その人が自分の守護霊だというのがわかった。

 「今までお疲れ様でした。 さあ、次の場所に行きましょう。」

そう言ったかと思うと、すでに景色が変わっていた。
その景色は自分が以前住んでいた家にそっくりだった。

 「私、帰ってきたんだわ」

守護霊は、

 「肉体がない状態に慣れるまで、ゆっくり休んでいてください。
  慣れたころに迎えに来ます。」

そう言ったかと思うと、姿が消えた。

もしかしたら、ここは幽界と言われている場所なのかしら。
慣れるといっても、さてどうしたものか・・・

そう思っていると、真美が子供の頃に他界した祖母が現れた。
祖母は長い間床についていて、回りに迷惑をかけながら生きていることを嘆いていたが、今自分の目の前にいる祖母はとても若く、溌剌としていた。
続いて親戚たち、先に死んだ友人が代わる代わる現れては幽界を案内してくれた。

地上の時間にしてどれくらい経ったのだろう。
長かったのか短かったのか見当もつかない。

ふと気がつくと、守護霊がそばに立っていた。

「ずいぶん慣れたようですから、次の段階にいきましょう。」

守護霊がそう言い終わらないうちに、地上時代の自分の姿が映画のように自分の目の前に映し出された。
同時に、地上に生まれようと決心した時の様子も思い出された。

  そうだ、私は人のために身を粉にして働くことで自分のカルマを解消し、
  成長する人生を選んだのだった。
  地上にいる時は自分の決心など忘れていたから、何度ボランティアを
  辞めようかと思ったけれど、とりあえずは決心したことは全うできたのね。
  でも、大したことはできなかったなあ
  私の地上人生はあれでよかったのかしら・・・

守護霊が言った。

「あなたはとても良い働きをしましたよ。」

地上にいた時は、人との関わりを深く考えたことはなかったが、ここでは地上にいた時に関わった人と自分との繋がりなど、全てがはっきり見えた。

多くの人との出会いは偶然ではなく、青写真の通りに出会ったものであったり、守護霊が必要に応じて出会わせてくれたことだというのが分かった。
出会った人とは、自分のカルマを解消するためであったり、お互いに愛の大切さを知るための関わりだったこともわかった。
そして、多くの苦しみは、自分が成長するために霊界から設定された大きくて深い愛であることもわかった。
窮地に立たされた時は必ず愛の手が差し伸べられ、何度も助けてもらっていた。
また、自分でも気がつかないうちに人に迷惑をかけたり、傷つけていたこともわかった。

こうしたことがはっきりわかって、真美は慟哭するほど感動した。

 「私、自分でも知らない間にこんなに悪いことをしていたのね。
  でも、それ以上に、こんなにも愛され、守られていたのね。。。。」

この感動は地上にいた時とは比べ物にならないほどのもので、自分から強い光が発しているのが分かるほど強烈な感動だった。

その時、夫だった人の声が聞こえてきた。
子宝に恵まれないこともあって、真美が生きがいをボランティアに見出したことを、夫も喜んでくれているとばかり思っていた。
しかし、いつしか夫は苛立つようになり、真美はそれに気がつく前に事故死したのだった。
 
  「僕たちは夫婦なのに、君は僕のことより障害児の方が大切なんだ。
   ボランティアなんかやめて、僕のために家にいてほしい。」

夫の声は、真美がボランティアにのめり込み始めた時のものだった。
そんな思いが夫の心の中にくすぶっていたのを、真美は今になって初めて知ったのである。

  あなた、ごめんなさい
  あなたのこと、私はちっとも考えていなかったのね
  ずっと理解してくれているものとばかり思っていた
  でも、そうじゃなかった・・・

すると、今の夫の心の内が見えてきた。
 
  真美、僕はボランティアに嫉妬していたのかもしれない。
  君がボランティアに一生懸命になればなるほど、僕は寂しかったんだ。
  でも、君が死んで、多くの人が君に世話になったと言ってくれるたびに、
  君が最高の妻だったことにやっと気がついたよ。
  僕のためだけに生きてくれなくてありがとう。
  本当は、僕はお前を家庭に縛り付けておきたかった。
  僕だけの妻であって欲しかった。
  でも、もしそうしていたら、僕はどれだけ後悔したことだろう。
  縛り付けないでよかったよ。

真美は地上で生きていた時は自分の仕事ぶりに自信がもてなかったし、力のない自分にジレンマを感じ、葛藤して苦しんできた。
しかし、夫の心を見せられた今、苦労が何一つ見過ごされることなく報われたことに心から喜んだ。

その時、地上に残った障害児たちが気になった。
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
耳を澄ますと、それはBちゃんの声のようだった。

  確かBちゃんは口がきけないはず。
  私のことを認識していているかどうかさえ分からないほど
  重度の障害者だったけど・・・

一瞬にして真美は作業所にいたが、今までと見え方が違っていた。

  Bちゃんの霊は障害なんかじゃない。 身体がうまく機能しないだけで、
  心は健常者よりずっときれい。
  それに、皆のことをこんなに愛している。
  Cさんの霊も障害なんかじゃない。
  今までのカルマを一気に解消して、次に生まれる時には多くの人の役に立つ人生を
  歩くために、自分でわざわざ苦しい人生を選んだのね。
  すばらしいわ。
  D君はカルマが大きすぎて、こうした障害の身体で一生を過ごすことでしか
  解消できないのね。
  でも、思い切って自分で不便な身体を選んだから、なんてすばらしい!
  頑張って!
  Eさんは、以前は何やら悪いことをして大富豪になった策略家だったのね。
  それに人を見下したまま一生を終えてしまったから、鼻っ柱をへし折られるために
  問答無用で不便な身体を選ばされたんだわ。
  自分で撒いた種を、刈り取らされているってことなのね。
  あら? 同僚の佐藤さんには、かなり辛い出来事が用意されている。
  霊的真理はすでに知っているし、魂はすでに目覚めているから、あとは磨かれるだけね。
  おやおや、前田さんは多くの辛い出来事に遭遇しているのに、ちっとも目覚めないのね。
  そうかあ、責任転嫁ばかりしてるからなんだ。

その時ふと、二人の宗教家が言った言葉を思い出した。

  あの二人の言ったことは間違っていたのね。
  障害は前世で悪いことをした罰でもないし、先祖が悪いことをした報いでもないわ。
  信心が障害を治すとか、お布施を出せば治るとか、これもまったく違うわ。
  むしろ、障害がある人の大半は勇気がある魂なのよ。
  誰だって不便な肉体をわざわざ選びたくはないのに、この人たちは次に大きな
  働きをするためにあえて苦しい環境に生まれることを選んだんだから、
  すごい人たちなんだわ。

真美の疑問が解けて喜んでいた時、守護霊が言った。

  これがあなたの地上人生でした。
  あなたは大きく成長されましたね。
  しばらく休んだら、本来のあなたの仕事場に行きましょう。

真美はすかさず申し出た。

  いえ、休む暇なんて要りません。
  どうか、地上で頑張っている人が早く成長するためのお手伝いをさせてください。

それを聞いて、守護霊は大きくうなづき、にっこり微笑んだ。




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