線路に住む男


プァーン! ガタンガタンッ ガタンガタンッ!



今日も、線路の上に、最終列車が通り過ぎていく。

その、線路脇に男が立っている。

男はサラリーマンだろうか?

きっちりと着込んだ背広に、ネクタイを締めている。



そこに、別の男がやって来た、

別の男は、大学生のようだ。

なんと、その大学生はパジャマ姿で、靴も履いていない。



「やあっ!」

「なんだ、またお前か?」

「はははっ」

「私は別にあんたに用は無いんだがね!」

「スミマセンね、夜はいつもヒマなもので…」

「ふんっ! ヒマなら勉強でもしていろ! お前は学生なんだろう?」

「確かにそうなんですが… そうそう、勉強と言えば、あなたは死後の世界に興味はありますか?」

「なんだ、昨日までの前フリは宗教の勧誘の為だったのか? スマンが間に合っている!」

「まあまあ、そう焦らずに、私は宗教になんか興味はありませんよ!」

「じゃあ、なんで死後の世界だなんて言うんだ!」

「いいじゃないですか、たまにはこういう話も! 実は、インターネットで面白い本を見つけましてね」

「なんだ?」

「心霊科学と言って、世の中には幽霊を科学的に解明しようとする科学者がいるんです」

「なんとまあ、物好きな科学者もいるものだ!」

「ええっ! でも、これはこれで結構面白いんですよ!」

「ふんっ! そんなモンかね!」

「そんなモンです!」

「まあ、確かに私も子供の頃は、人は死んだらどうなるのかについて、ずいぶん考えた時期もあったが、歳を取って仕事に追われる毎日を繰り返していると、もうそんな事考えようとも思わなくなってしまうもんだよ!」

「そうですか… それはそうと、今ここにその本があるんですが、どうです? 読んでみませんか?」

「結構だ! 私は明日も仕事で忙しいんだ!」

「まあまあ、そんな事言わずに、実はですね、霊はね、本当に実在するんですよ!」

「なんだお前! お前まさか、そのおかしな本で頭をやられてしまったんじゃないだろうな!」

「いえ、実在するんです この様に」



「!!」



なんと、その大学生は、いきなり空中に浮かび上がった!



「ひいいいい〜!! ばっ化け物〜〜〜〜〜!!!!!」



「失礼ですね、私は化け物なんかじゃありませんよ!」

「たっ助けてくれ! 取り憑かないでくれ! 死にたくない、まだ死にたくないんだ! どっかに消えてくれ!!!」



「ちょっとショックを与え過ぎてしまったようですね、残念ですが、今日はこの辺で失礼いたします。 あっ本は置いていきますよ! では〜!」



シュン!



「ほっ 本当に消えちまいやがった…」





「あっ! お目覚めですか! お帰りなさい!」

「ただいま!」

「どうでした?」

「う〜ん… 霊の存在を教えようとして、ちょっと焦りました… ショックを与えてしまったようです」

「まあ、気長にやりましょうよ」

「ええっ… スミマセン……」

「それにしても、あの方が早く、自分の置かれている状況に気付いて下さると良いんですが…」





パタンッ!



「…そうか、そーゆー事だったのか…」



「あの時… 私は、 もう……」








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霊的故郷