守銭奴


ある守銭奴が亡くなった。



彼は生前、多くの善良な人々を騙し、金を稼ぎまくった。

その多くの人達に恨まれた彼は、大往生し、安らかな眠りについたのだ。

彼に恨みのある人々は、その安らかな死に顔を見て思った。



「あれだけ悪事を働いた人間は碌な死に方をしないと思っていたのに この安らかな死に顔は一体何だ! この世には神も仏もいないのか?」



と、





……

………



「あれ?」



「俺は一体どうしたんだろう…」

「ここは… 俺の家か!? 俺は確か病院で寝ていたはずなのだが……」

あたりを見回すと、なんと机の上に沢山の札束が置いてある、軽く1億はありそうだ!

「うお? こっこれは… 俺の金じゃ無い! 誰の金か知らんが、ここはありがたく頂戴しておこう ちょうどハラも減ってきたし、この金で何か上手いもんでも食おう!」

札束を握りしめて男は意気揚々と街へ繰り出すが、何か様子がおかしい…

今日は人が1人も歩いておらず、車も全く走っていない。

しばらく歩いてみたが、今日はどのレストランも臨時休業で空いていないようだ。

「妙な事もあるものだな… しかたがない コンビニ弁当でも食うか!」

コンビニを探ししばらく歩くと、一件の営業中のコンビニを見つけた。

店内に入り、弁当コーナーへ…



「!!! なっなんじゃあ! この弁当は!! こんな弁当があるかっ!!」



そこには、ごく普通の定価500円の日替わり弁当があった。

パックのみ、ごく普通の日替わり弁当が…

なぜパックのみ、ごく普通なのか、それは、その弁当の中身が全て一万円札で出来ていたからだ。

ご飯に見立てたクシャクシャのお札の上に、海苔に見立てた一万円札。

おかずもキレイに形が再現された一万円札で出来ている。

器用に丸めた卵焼き風、鳥の唐揚げ風の一万円札の数々。



ならばおにぎりでもと思い、上の段を見ると、そのおにぎりも、全て一万円札で出来ている。

それだけではない、店内をよ〜く見ると、全ての商品が一万円札で出来ている事に気付く。

「こっこれは… 何か間違って現代アートの美術館にでも入ってしまったのか?? とっとにかく ハッハラ減った… 喉も異常に渇いて来た… まあ、家の冷蔵庫の中にも、何か残り物があるだろう 取り合えず、家に戻るか!」



彼は家へと引き返し、自宅の冷蔵庫を空けた。

「!!! くそっ! 誰のイタズラだっ!」

そこにはやはり、一万円札で出来た沢庵、胡瓜…

ラップがかかった皿に盛られたのは何だろう?

この形は…

「ああっ! マグロの刺身か、ほ〜! 良く出来てる」

じゃなくて!!



買い置きのカップ麺を開けても札束麺。

蕎麦とうどんの乾麺も、言うまでもなく丸めた一万円札。



「とにかく喉が乾いた! 水だっ 水!」



蛇口を目一杯開く彼。





にゅ〜

にゅにゅ〜〜

ポトンッ!



「うわあああああああああああ!!!」



ポトンッ!



「れっ 冷静になれ! これは俺が金を騙し取った奴等が仕掛けたイタズラだ!」

「そっそうだ! ここは海の近くなんだから、浜に行けば何か獲れるだろう!」



もはや飢餓状態とも言える空腹と喉の渇きの為、這うようにして、やっと海岸についた彼の見た物は…



「そっ そんな……」



ザザーン!

バラバラバラバラ

ザザーン!

バラバラバラバラッ



それは、果てしない水平線の彼方まで続いていた。








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霊的故郷